…分かってはいるんだ。そんなものが見えるはずが無いことくらい。でも…。
私の能力は実戦でしか使わない。いつもの生活の中では要らないと言ってもいい。(使うとしたら魂の動揺を読んで嘘を見破るくらいか)
本当は偶然だった。私の能力が目覚めたのは補習授業のときだ。
あの日から、意識すれば皆の魂が見えるようになった。
ただ、見えるのは魂だけであって…、その人が何を考えているのかとか記憶なんかはほとんど判らない。それはキッドから聞いていたし、自分でも感じていた。
それなのに、私は今、目の前の相棒の魂をガン見している。
彼はソファーに座って、ぼうとしているからたぶん気付いていないだろう。
いや、最初は好奇心だった。もしかしたらということがあったりするかな…と思ってやってみただけである。
だけど見えるのは彼の魂のみ、心の中なんか全然見えない。こうなることは分かっていたのに、何故か儚く感じた。
…わたし最近おかしいのかな?
「―、…マカ」名前を呼ばれ、ふと我に返る。
目の前にいるソウルは少し困ったように笑った。
「またそんな顔してる。」
また、という言葉に私は、はっとなった。そういえばずっとこんな事を最近繰り返している気がする。
ずっと、ソウルのことを睨んでるのか…。そう思うと、しゅんとした気持ちになった。
「怖いんだよ、その眼でじっと見られるとさ」
彼はにこやかにもみえる表情で言ったが、私の心の中は申し訳ない気持ちで一杯だ。
「…ごめん」そう言って、ゆっくり眼を閉じた。
私はこうして、いつも能力を抑えるように止めるのだ。
すぐに目を開けた、が何を話して良いのか分からない。そのまま、何秒かの沈黙が続いた。
先に沈黙を破ったのは、彼だった。
「なあ、何かあった?最近そんな顔ばっかりしてるけど」
「……」
人の心を覗こうとしてた、と言えるはずが無い。何も言えなくて俯いた。
精一杯考えて出した言葉は、
「分からないの」
自分でも聞こえずらい大きさの声だった。
「ん?」彼は眉をひそめた。
多分聞こえなかったのだろう。だからもう一度言った。というより、叫んだ。
「―分かんないの!」
今度は声を大きくし過ぎたか。彼はびくっと肩を震わせ驚いた。
でも、私はそれに構わず続けた。
「…どうしても、ソウルをずっと見ていても、分からない。何も…、やりたいことも、好きなこと、も、考えている…ことだって、っ」
言葉をひとつひとつ発するうちに、鼻がつんとしてきた。目頭が熱くなってきた。
ああ、私今泣いているんだ…。そう感じたときには既に、涙が頬を伝っていた。只見えないだけなのに、どんどん瞳から雫が零れるのが自分としては可笑しかった。気付けば、嗚咽が漏れそうになる。
見えない、だけなのに…悲しみが溢れてくる。
なんで…?
涙目越しに見えた目の前の彼は、暫く戸惑っていたけれど、やがて口を開いた。
「俺だって分かんないよ?」
彼は当たり前のように言った。
「え?」
「マカの考えていることは俺も知らない。分かろうとしたって、心は視ることはできないしな。マカが分からないなら皆分からないよ」
「でも…、」
…分からないことがあるのが嫌だ。
「マカは俺のことよく分かってる」彼は笑顔で言う。何でそんなに笑うの…。
「そんな…」違う、って言おうと顔を上げようとした刹那、頭に手のひらが乗った。そして、
抱きしめられた。
「全部は、分からなくたっていいんだよ」
慰めてくれているのだろうけれど、涙が止まらない。
この優しさが痛すぎて、嬉しいから。
そっか…、全部が全部を知らなくったっていいんだ…。そう思えてきた。
この日から、私は能力をこう使うのは止めた。だって、魂しか見えないし。
もし、今心が見えるようになったとしたら?
そうなったとしても、もう視ないと思うんだ。全てを知ってしまうと、楽しくないから。
分からないものがあるくらいが丁度いい。
enど。