次の土曜日。日付は。
「2月、14日、土曜か…」
「ん?どうしたのソウル?」
「いやー、今日は朝から外が五月蝿いから何だろーなと思ってー?」
「うん、今日はあれだね、バレンタインだね」
(…やっぱり)
ソウルは気づいていた。前日からマカの様子がおかしいのが。いつもこの時期になると、友チョコを作るがために
張り切っているのに(いや、そこまでは変わらなかったが)、時折溜息をつくようになった。
「なあマカ、具合でも悪いの?」
「へ?そんなことないよ?」
「…ふーん」
「何そのつまらなさそぉな顔…。ま、いいけど。あ、ほら、今年の分」
マカはエプロンのポケットからちっこい箱を取り出すと、ソウルの前に差し出した。
「あぁ、ありがと」
ソウルは両手でしっかりと受け取る。…いつもと少し受け取り方が違うのはマカも気づいてたし、ソウルも自覚していた。
互いに口には出さなかったが。
「そんじゃ、これ友達に渡してくるね!」
マカはエプロンを脱ぐと、紙袋いっぱいに入れたチョコの箱たちを持って玄関を飛び出ていった。
「あいつ、何個作ったんだ…」
ソウルが毎年思う疑問である。でも、そんなことより、今年気になったのは、箱の中身だった。いつもより重くて、
チョコ以外のものが入っていそうだった。ほんとなら、マカが帰ってくるまで開けない(というかマカがなぜか
開けさせてくれない)のだが、気持ちを抑えきれず、自分の部屋のこもって、こっそりと開けた。
「…ん?」
チョコが左に偏っていた。というものの、なぜなら右には別なものが入っていたから。そして、星型のチョコの上には
見慣れないメッセージカードが添えられていた。
「うわぁ…手ぇ込んでる…どうしちゃったんだろ?…この右のスペースは何」
右には薄いカバーがしてあった。それをめくると、1本のボールペンとキーホルダーが入っていた。そして横のカードには。
『この前、ペンが壊れたってソウルが言ってたから買っといたよ 高いんだから大事に使ってよ! …え?なんでこんな
手の込んだことするのかって?…それはね』
「大好きだから…だよ、か。……うわっ!!呟いた俺なんか恥ずかしっ!誰もいないけど!!」
ソウルは独り言を叫ぶと、赤面しながら口に手を当てる。…えぇ、傍から見れば滑稽です。そのあと、カードを
まじまじと見つめると、ソウルは「可愛いやつ」と笑いながらチョコを1つ口に放り込んだ。
マカは、帰ってくるといきなり玄関で倒れこんだ。
「マカ、どうした?!」
「…疲れた」
「おいおい…。はい、肩貸すから」
「うぅ、ども」
マカは腕をだらーんと伸ばすと、ソウルの肩を借りながらおぼつかない足で、なんとかリビングまで歩いた。ソウルは、
とりあえず彼女をソファーに座らせる。マカはソファーの背もたれに思い切り寄りかかった。相当はしゃいだらしい。
ソウルは、こんなタイミングで言ってしまっても大丈夫だろうかと考えたが、最悪、本の角で打っ叩かれるだけなので、
意を決して口を開いた。
「ねぇ、マカって口じゃ伝えきれないタイプ?」
マカの体がピクッと反応する。そして、ゆーっくり起き上がる。
「開けたんだ」
「あれ?…駄目でした?」
「ううん。むしろ開けてほしかったくらい。…あれね、頑張って、作ったんだからねっ!」
「頑張って、…」
そこまで口に出して、ソウルは急に笑いがこみ上げてきた。我慢できなくて、その場でけらけらと大笑いした。
「!もぅ、何?そんなに変だったわけ?!」
「違うってば…戦う時は真面目で男っぽいのにさ、こういう日はすっごく女の子って感じで超かわいいんだもんっ、
あはははは」
「…かわいいって感じるんならもっとそれらしい顔でいってよ…こっちに気持ちが伝わってこないじゃん!」
マカは足でしっかり立ってソウルに言う。あの疲れは何処へ行ってしまったのやら。
「ごめんごめん。つい笑っちまった」
ソウルは1回深呼吸をすると、マカをがしょっと抱きしめた。マカは突然のことにちょっと驚く。でも、ソウルの胸は
すごく温かくて落ち着くことができた。
「あ、そういえば俺もちゃんと伝えてなかったことが」
「え?」
「マカのこと大好き」
「…うん」
そして、少しの沈黙。・・・。
「…あっははははっ!!」
「ねぇ、どうして笑うのよ!」
「だーかーら、可愛いんだってば」
「笑いながら言わないでよっ!」
この日は、今までの、そしてこれからも、1番思い出に残る2月14日だと、ソウルは心の中で呟いた。
enど。